民間企業にて人事として採用・タレントマネジメント等を5年半担当。 2019年国連本部でのインターン、2020年コロンビア大学教育大学院卒業を経て、2021年よりJPOとして国連本部で人事として人員統計を担当。 現在は同機関の人事部において研修予算管理を担当。
国際協力や国際機関での勤務に興味を持った時期やきっかけ 私は生まれつき弱視という障害があり、視力が非常に低いため、幼い頃から多くの方々のサポートを受けて育ってきました。日本の大学では社会福祉を専攻し、将来何等かのかたちで子供たちや障害のある方々の手助けをしたいと漠然と思っていました。また大学卒業後は、グローバルな環境で、多種多様な価値観を肌で感じ、自身も世界から必要とされるような人間になりたいと思っていました。
日本の大学卒業後は国内の民間企業にて、人事として採用やタレントマネジメントを5年半担当しました。多くの人とコミュニケーションをとり、人材の発掘・成長を後押しできる人事としての経験を積んでいく上で、コーチングやEQ(Emotional Intelligence Quotient)、ダイバーシティや組織文化のデザインなど人事心理学分野における関心が高まり、退職、アメリカ・ニューヨークでの大学院進学に至りました。学生の際にインターンシップとして国際機関に出会い、ここで将来キャリアを積む自分自身の姿が見えたので、修士取得後JPOとして国連本部に再び戻ってくることになりました。
2020年 インターンシップ
SNS掲載コンテンツについて作戦会議中
JPO終了後の現在も人事として国連本部で勤務しており、インターンシップから現在に至るまで同人事部門において経験を積んでいます。人材育成や、性別・人種・障害の有無などのダイバーシティの促進など、組織における人事施策に深く関わることで、国際機関の現状、将来目指す組織としての価値観、あり方など学ぶことができています。
2022年JPO 人事イベント後、みんなで記念撮影
現在は国連における人員統計の調査、将来求められる人材やスキルの分析、人材育成計画、予算管理などをを担当しています。人事データ分析などのハードスキル、コンピテンシーに沿った研修の企画などのソフトスキル両方が必要とされる分野です。国際機関として、将来どうありたいか、そのためにはどのような人材を発掘し育てることが必要かということを人事的視点から日々深く追究しています。
国際機関で働く上で最も意識していることは、多様性を尊重することです。上司、同僚は皆多種多様なバックグラウンドをもち、英語という共通言語を通じて会話していても、価値観や考え方の違いに驚くことも少なくありません。その中で相手はどのような意図で話しているのか、どのように自己表現すれば自身を理解してもらえるかなど試行錯誤することが必要です。国籍や文化が違うのだから最初は理解できないので当たり前。そう覚悟した上で、相手の話を聞き意図を読み取る、自分を上手に表現する高いコミュニケーション能力が重要であると思います。
これまでの一番の困難はオンラインワークでの人間関係構築です。JPOとして勤務開始したのがコロナの真っ只中であったことから、完全オンラインでの業務スタートとなり、上司や同僚と良好な関係を築き、信頼を得て、重要な仕事を任されるまでとても大変でした。チームメンバーと一対一でオンラインコーヒータイムを通じ自己紹介の機会を作ったり、ピクニックやHappy Hourなどソーシャルイベントを提案したりと工夫しました。また、業務においても上司の指示には迅速に対応し、定期的にミーティングを実施することで現状を共有し、円滑なコミュニケーションに努めました。
国際機関で働く際に英語習得の必要性は言うまでもありませんが、重要なのはその言語を通じてどのように自己表現するかSelf-promotionであると思います。高いスキルやユニークな経験をもつ人材が多く働いている国際機関において、どのように自分を売り込んでいくかは私にとっての永遠の課題です。例えば資格や研修の記録をすべて残しておくこと、案件の数値化(予算・人員規模、アンケート結果等)を通じて自分は何ができるのか、チームに対してどのような価値をもたらすかをしっかり伝えるということです。私が新しいチームに入る際は、自己紹介ビデオ・スライドを通じて自身のこれまでの経歴やスキルを伝えるようにしています。このようなスキルの“見える化”は自身をアピールするための手段、会話のきっかけとしてとても有効的です。
それに加えて、“継続的に学ぶ姿勢”を見せることは非常に重要だと思います。定期的に上司や同僚からフィードバックをもらう場を設け、どこがよかったか、改善点は何か、今後どうすればステップアップできるかなど日ごろの業務やキャリアについてアドバイスをもらうようにしていました。このようなハングリーな姿勢は誰からも歓迎されましたし、多くの気づきを得ることもできました。
また私自身JPOで国連勤務中に出産・育児を経験したのですが、休暇中にコーネル大学の人事データ分析の学位を取得しました。このように組織内外でアンテナを広げ、自分が成長できる機会を常に探しています。
国際機関、そこで働く人々はワークライフバランス、自己実現に非常に理解があると思います。JPOは私たちに与えられた学びの機会ですので、上司から指示された仕事以外でも様々なことに挑戦し、自分磨きをするよう心掛けました。
2022年JPO 人事イベント後、みんなで記念撮影
民間企業を退職後、留学先にアメリカのニューヨークを選んだ理由はずばり“アクセシビリティ”移動の利便性です。弱視で車を運転できない私は、公共の交通機関が利用できることがマストでした。コロンビア大学の教育大学院にて、かねてから関心が高かった社会・組織心理学を学び、卒業後のキャリアについて考え始めました。大学院がニューヨークにあったということもあり、国連の求人を多く目にし、インターンシップを応募するに至ります。
2022年JPO最終日、オフィスでチームメンバーとお祝い
人事部のインターンシップでは、アウトリーチ、ダイバーシティの尊重を担当していました。FacebookやTwitterのソーシャルメディアの投稿作成、学生向けのキャリアイベント主催など様々な貴重な経験をさせていただきました。学業とインターンシップを両立することは時間的にも経済的にも容易なことではありませんが、様々な歴史を見守ってきた国連のビルで働けるということだけでも光栄に感じていました。自ら積極的にプロジェクトを主導し、提案を持ち掛け、できるだけ多くの人と関わるように心がけました。ここでは色んな機関にまたがってキャリア形成をし、あらゆるところで人と人とが繋がっているということを学んだので、ネットワーキングの重要さを改めて感じました。このインターンシップ経験を通して、人権の尊重・平和を守るという組織のミッションが、将来誰かの役に立ちたいという自身のモットーと重なり、“国際機関において、グローバルな舞台で困難な状況にある人の手助けをしたい” という思いへと繋がりました。
2020年 インターンシップ 国連本部ビル内
2020年 インターンシップ 同僚とコーヒーブレイク
2年間のJPOを経て、現在のポストに就くまで、非常に山あり谷ありの経験でした。JPOはあくまで日本からの資金援助で成り立っており、その後は国際機関からの予算となるので、一筋縄ではいきません。JPOの間は定期的に空席公募をチェックし、関心があれば掲載元のチームへ話を聞きに行くなどしていました。いろんな人から国際機関でのキャリア形成のアドバイスを乞い、Personal History Profile (PHP)の添削、面接の練習に付き合ってもらうなどあらゆる方法でサポートをしてもらうよう試行錯誤していました。今後も人事という仕事を通じて、人材のマネジメントに関わることで国連組織を内部から支えていきたいと思っています。
国際機関で働くためには、時に勤務地を変え、短期契約を渡り歩くなど長期的視点でキャリアのイメージができないことも多くあるかと思います。自身が出産と育児を経験し、心身の健康状態が非常に重要であると感じました。生活の基盤が整わなかったり、仕事量の波のアップダウンが激しかったり、思うように進路が決まらなかったりと浮き沈みがあり、常に前向きにキャリアへのモチベーションを保つことが困難なこともありました。自分の最高のパフォーマンスをするために、まずは心身が健康であること、普段の生活が安定していることが不可欠ですので、オンとオフのメリハリをもち、一人で悩みこむことのないように相談相手を作ることで救われることもあります。最後はマインド勝負なので、思うようにいかずとも自分を責めない、周囲と比べない、最後は努力して成長した自分を褒められるように強い精神があればきっと道は開けると思います。
私は30歳になるまで国際機関で働くチャンスがあるなどと想像もしていませんでした。そんな私が10‐20代でやっておけばよかったと今になって思うことは、英語の習得、学業への尽力、課外活動とスキルの構築です。特に英語においては、ただ読み書きできるだけでなく、言語というツールを通じて、自己表現する力を身につけておきたかったと思っています。自分のバックグラウンド、どのようなスキルがあり、どのような価値をチームにもたらすことができるのか、いつ誰にでもわかりやすく説明できるようになりたいと常日ごとより思っています。そのためにはボランティア、留学、インターンシップなど様々な経験を積み、コミュニケーション能力を磨くと共に、その経験を”見える化”する努力が必要です。
2020年 インターンシップ International Youth Day記念
進学・キャリア形成において“手遅れ”などということは存在しないと思っています。私自身、一般より高い年齢で大学院進学、国連への就職をしているかもしれません。ただ、自分の障害に向き合い、克服し、前に突き進んでいっていることを考えると、決して遅いなどとは思いません。実際世界にはいくつになっても再進学し、第2・第3キャリアを築いている方がたくさんいらっしゃいます。
日本においてキャリアチェンジはとても勇気のいる行動で、同期生はどんどん昇進していく中で、自分はまた一からできるだろうか、学生をしていていいのだろうか、と自問自答することもあるかもしれません。ただ、大事なことは周囲にどう見られたいかではなく、自分がどうありたいかです。人より時間と手間をかけてでも叶えたい夢があるのは素敵なことです。
人生において近道などないと私は思っています。時間と労力をかければかけただけ、後になって自分の財産となって返ってくるので、大胆かつ不屈の精神でどんどんチャレンジしていってほしいと思います。