高校生の時に国連やその活動のことを知って以来、漠然と国際機関への興味を持っていたのですが、国際機関を目指したいとはっきり思ったのは大学2年生の海外インターシップがきっかけだったように思います。大学生の海外インターンシップを運営している団体を通じて、英語でコミュニケーションのとりやすいフィリピンでのインターンシップに応募しました。勤務先はマニラの人身売買被害者を支援するNGOで、現地の社会福祉士についていって被害者の方々のお家を訪問して、レポートを書いたりしていたのですが、その時訪れた現地のいくつかのコミュニティがあまりにも無法地帯というか、混沌としていて、全くインフラや公共サービスの網からも外れた場所でした。そのために人身売買のような組織犯罪が野放し、助長されていたのですが、ガバナンスの重要性というものを強く感じた経験でした。そこから、ガバナンスの脆弱な国を支援する仕事をしたいと思ったのが国際機関就職の動機です。
応募書類作成においては、自分の過去、現在、未来―つまり、①自分の過去の経験がどのように応募先機関・部署とリンクするか、②自分がそこで何を学びどのように成長したいのか、③そのポジションを卒業した後、どのようなキャリアを歩みたいか、この3点を明確にし、ストーリーとしてしっかりつながるよう意識しました。面接については既にJPOとして勤務されていた先輩方にお話を伺い、想定される質問とそれに対する答えを考え、ひたすら練習するといった形でした。答えを記憶して読み上げるというのは通用しないので、完璧な答えを用意するのではなく、考え方や話の大枠だけ頭に入れておいて、その場の状況に合わせて自然に答えられるように練習しました。
私の所属する部署は、UN Women Strategic Plan 2022-2025の実施、モニタリング、レポーティングを担っています。国際機関におけるStrategic Planとは言わば民間企業の経営計画のようなもので、中長期的に機関が果たすべき目標とそれを実現するための戦略や計画、評価指標が記された重要なものです。私は主にモニタリング部分を担当しており、全世界にある地域事務所や国事務所がStrategic Planに定められた目標をどの程度達成できているか、進捗を四半期で確認し、改善案等をまとめる仕事をしております。また、本部側でモニタリングするだけでなく、地域・国レベルでのモニタリングプロセスを策定し、そのプロセスの実行支援も行っています。
2022年 所属部署のリトリートにて同僚達と
ひとえに国際機関といえども本部、地域事務所、国事務所でそれぞれ求められる役割は変わってきます。私が現在所属する本部では、地域・国事務所が各々のプログラムを実行するために支援することが大きな役割の1つです。そのため、地域・国事務所の同僚や彼らの置かれている状況を注視し、よく声を聞き、各々のスタイルに合ったコミュニケーション方法や支援の仕方を選択することを心がけています。特に国際機関の現場は中所得レベルの比較的安定した国もあれば紛争の続く環境が非常に厳しい国もあり、国事務所の事情も様々です。そういった背景への配慮と個別に合った対応が現場の適切な支援につながります。また、所属機関本部では、国連本部や加盟国、その他対外的なステークホルダーに向けたコミュニケーションも重要な仕事なので、文書や資料作成においては外交的な側面に気を配りつつ、使用する単語や表現方法にも注意するなど、diplomatic sensitivityを意識しています。
ニューヨークは幸い邦人職員の数、JPOの数ともに多く、同じような環境で働いている方々とつながり、悩みを共有しやすいという利点があります。所属機関に関わらず他の邦人職員やJPOの方々とお話ししたり、仕事についてアドバイスをもらったりすることで問題解決や気分転換につなげています。
Excelスキルの向上です。現在の担当業務では世界中にある地域・国事務所の業務に関するデータを四半期で収集し分析するため、大量のデータを処理し傾向をつかむ必要があります。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなど活用できたら良いのですが、国連全体として予算の制約もありそういったICTツールの導入が遅い傾向にあると思います。そんな中で、Excelという基本的なツールを用いてどれだけ効果的に情報分析できるか、は重要なスキルだと感じます。
大学院では2年間かけてじっくり学びたいとの思いから、ほぼ米国に絞って何校か受験をしました。国際機関を目指すうえではやはりニューヨークやワシントンDCといった国際機関本部のある場所に進学する方がインターンの可能性など広がると思い、最終的にニューヨークを選びました。学校では元国連職員の先生が複数おり、国連での業務を見据えた実用的な授業を開講していたり、国連でインターンしている同級生が多く情報交換が活発であったりと、国連就職に向けて準備する上で非常に有用であったと思います。
大学院1年生の夏休みに、UNDP本部の対外・アドボカシー局でインターンとして働きました。元々大学院の授業の一環でUNDP本部に職場訪問する機会があり、その際にお話しした職員の方から今度インターンを募集するので興味があれば受けてみたら良いのでは、とアドバイス頂き、そのポジションに応募したのがきっかけです。所属先が職員3人と小さめのチームであったため、インターン生でも様々な業務に関わる機会を頂き、UNDPという組織の構造、本部と現場の違い等勉強になるインターンでした。UNDP本部では大学院のインターン生が多数おり、インターン生同士の情報交換やネットワーキングも活発で、助け合いながら和気あいあいと仕事ができたのも良い思い出です。また本部では邦人職員の方々と接する機会もあり、JPO経験談や国事務所での経験など、その後のキャリアを考える上で参考になるお話をたくさん伺うことができました。
日本のいわゆる終身雇用(今はそうでないところも多いかもしれませんが)という形は、それはそれで魅力的な部分もあるのですが、一方で思わぬ異動など、自分で物事を決める自由が狭まるといった部分もあるかと思います。国際機関の契約形態は不安定な部分もありますが、自分が興味のある分野に応募し、自分でキャリアパスをつくっていくという自由もあるので、そういった点を利用するということもできると思います。
私は現在の仕事の前に南スーダンにおりましたが、やはりこのような地域・国の現場でしかできない仕事があり、仕事のスピード感も早く求められる役割も大きい場所であったので、個人的にはポジティブな経験をさせてもらいました。現場での仕事に興味がある方々にはぜひ一度そういった勤務地をおすすめしたいと思っています。しかし、危険な地域での勤務というのはやはり向き不向きがあります。特殊な環境をある種の良い経験をとらえてポジティブに生活している同僚がいる一方で、精神的に厳しくなり体調を崩す同僚もいました。危険地での勤務については、一度出張等の短期滞在で自分の耐性を確認するのが良いかと思います。
2023年 UN Women執行理事会2023年第1回定期会合にて同僚と
国際機関への応募においてはある程度の職務経験が必要になるので、20代の方々は特に、どのような職務経験が国連就職に有利になるのか、を考えて行動されている方が多いかと思います。もちろんコンサルタント、UNVなどを通して直接国際機関での経験を積むことは有利に働きますし良いことだと思うのですが、国際機関以外での経験から国連に入る方々もいらっしゃいますし、道は一つではないので、あまり「国連就職に理想的なキャリアパス」とされるようなものに囚われすぎなくても良いのかなと思います。私自身日系民間企業での営業職の経験が長く、国際開発業界での直接的な経験は長くありませんが、それでも国際機関にキャリアをつなげることができました。就職活動においては能力や経験だけでなく運やタイミングなども大きく影響しますし、国際機関であれば更に倍率がとても高いので上手くいかないことの方が多いと思います。それに焦らず忍耐強く応募し続けていくこと、そしてその間も縁のあった場所で自分の出来る仕事を最大限頑張り続けること、が重要なのではないかと思っています。