大学3年生の夏に行った海外ボランティア活動で、途上国の農業で収入向上支援を行う社会起業家とそれをサポートする国連プロジェクト、そして雇用が生まれて生計を立てられるようになった人々を生で見た原体験が国際開発分野、特に国連で働きたいと思ったきっかけです。途上国で就農する人の多さと低収入の現状、技術や能力開発の重要さ、付加価値を作ることによる生活向上へのインパクトの大きさをそこで痛感したことが、その後の将来への考え方を変え、農業・ビジネス・付加価値作りに専念する動機となりました。
民間企業や青年海外協力隊として、農業・ビジネス・付加価値作りを10年ほど経験した後、公的機関で最も大きい国連だからこそできるインパクトのある仕事がやりたいと考えました。
私が国連を選んだ理由は大きく3つあります。1つはインパクトの大きさです。予算が各国から集められ、大きな資金力を持つのでより多くの人たちに支援をすることができると考えました。また戦略や政策の策定から最終的な受益者に至るまでをカバーできる守備範囲の広さも自分のやる仕事のインパクトをさらに強くするものと考えました。2つ目は知識の多さです。75年以上の歴史がある機関で世界各国の課題やベストプラクティスを蓄積している機関は国連だけです。それを学ぶことによるスキルアップで自分のできることを拡大したいと考えました。3つ目は国際的環境です。世界中から優れた人たちが集まり議論しながらプロジェクトを動かせるのは国連の醍醐味だと考えました。
自分のやれる仕事のインパクトを考えた時に、1番貧困が深刻なアフリカ、その中で1番多くの人が関わっている農業、その中で1番足りていない農業ビジネス開発ができる最適な国際機関としてFAOを選択しました。
民間企業で働いたことによるデータ分析力、プレゼン能力、仕事スピード、論理的思考力の4つは国連という色々なステークホルダーの考えを束ねなければならない仕事柄、分かりやすく単純にかつスピーディに成果を出すためにとても有効だと思いました
応募にあたって1番必要だと感じたことは、国連で働くことへの理解度です。私はJPOを2回受けており、一度は落ちました。その時に感じた敗因は、国連で実際に働いたことがなく、又聞きでしか理解していなかったということです。実際に泥臭いこともやらなければならない国連で、自分は何がやれるのか、具体的にどんな貢献ができるのか、そして国連で勝ち残るための道筋は何なのかを働いて考え、伝えることができました。その後、国連ボランティアで経験を積み、受かることができました。実際に国連で働いたことが無い場合には、国連と実施するプロジェクト経験など、様々な方法でより理解を深めることが重要だと思います。
2022年 近東・北アフリカ地域農業組合フォーラムにて
*エジプト農業省がカウンターパートなので
そちらに合わせることにしているようです。
私はFAO近東・北アフリカ地域事務所の農業ビジネス担当をしており、主な業務は大きく2つあります。1つは管轄している全19ヵ国の農業ビジネス関連プロジェクトに対しての技術支援、もう1つは地域事務所の優先課題となるトピックについての地域戦略や分析レポートの作成、ウェビナーを通しての理解促進などです。具体的に直近では地域のデジタル化分析レポートや紛争地域でのバリューチェーン開発フレームワークの作成などをしています。
1番大切なことは、何が受益者にとって意味があるかを常に考えながら目的を持って仕事にあたることです。毎日多くのメールやミーティング、ウェビナーなどへの招待、また日々のタスクに追われて知らぬ間に手段が目的にすり変わりやすい日常です。そうなれば必然的に生産性や仕事の質も落ちてモチベーションが下がっていきます。現場になかなか行けないポジションでも、いかに受益者にとって有効な業務は何かを考えて仕事をしていくかで、最終的な成果に直接変わってくるので、非常に大事にしていることです。
語学力はあるに越したことはありません。語学力によって発言力も変わるし、発言しないと価値が発揮されません。英語はもちろん、英語以外の国連公用語の習得は時間のあるうちに実施することをお勧めします。
民間での現場経験、論理的思考力、プレゼン力、データ分析力です。やはり現場を経験してる人の意見は受益者の声を反映しているので受け入れられやすいです。また多くのステークホルダーを巻き込む仕事なので、データ分析による客観的な考え、論理的に誰もがわかりやすく話せるコミュニケーションは仕事を円滑に進める上で非常に助かっています。
私のリラックス法はジムに通い1-2時間強めの運動をすることです。ほぼ毎日規則正しく行なっています。これにより肉体的にも精神的にもリフレッシュすると同時に、自分の日々のコンディションチェックの時間にしています。
ワークプランを細かく落とし込むことが大事だと思います。それによりその日にやらなければならないことだけに集中して、それが終わればすぐに仕事を切り上げるというようにメリハリをつけることができます。
次のキャリアに必要になるスキルとして、語学力(アラビア語とフランス語)・専門性(農業サイエンスやデジタル技術)を勉強しています。
初めて国連にボランティアとして入り、国事務所に配属していた時です。そこでは1人が担う責任がより大きく、多くのプロジェクトにアサインされました。まだ国連のシステムに慣れていないばかりではなく、中には担当分野ではないプロジェクトのリードを任されることもあり、自分にとっては未開の分野における高い専門性・政府関係者などを巻き込む力・プロジェクト管理力を一度に試されて苦労しました。
上記のような問題は色々なところで耳にします。対処の仕方は大きく3つあると思います。1つ目は自分の知り合いや情報網をフルに使い短期間に誰よりも多くの知識を増やし、早急に主問題を自分なりに整理することです。私はFAO本部や地域事務所の人達、またFAO外の専門家と積極的に話をして喫緊の課題の絞り込みを行いました。これは国連にいることの強みで、色々な専門家の人に話ができます。自分の専門性を上げるとともに、関係者からの信頼感の増長に繋がり、プロジェクト運営に有効でした。2つ目は、自分の強みをしっかり関連者にアピールすることです。私であれば課題に対する分析力とパワーポイントでのプレゼンは関係者内では負けないと思っていたので、会議でしっかりとパフォーマンスを発揮し、信頼を獲得することができました。これは初めて会う人達にとっての自分の価値を大きく上げる効果があります。3つ目は、複雑なものをシンプルに伝えるコミュニケーション力です。国レベルでは特に多くの手を動かす仕事がたくさんあります。更に、色々なバックグラウンドを持った人たちとの仕事が基本です。その中で、自分の仕事の重要さを知って協力してもらう必要があるのです。私は具体的に、ゴールとベネフィットを関係者にシンプルに伝え、ワークプランをできる限り簡易化して全ての人と共有することでプロジェクト運営の透明性が増し、責任の所在が明確になり、効率性が上がりました。国連ならではの環境でどう適応するかという意味でこの3つは常に心掛けています。
英語の習得に1番良いのは留学です。早ければ早いほど、長ければ長いほど良いと思います。英語以外の国連公用語は正規ポジションを取るためには必要です。スクールに恒常的に通うのも良いですが、僕は転職の合間にフランス語圏に行って集中的に勉強しフランス語の資格を取ることができました。
2022年 近東・北アフリカ地域合同農業ビジネスワークショップを主催。16か国の出席者と
国際的な環境に触れる、または身を置くことが大事だったと思います。中高ではできませんでしたが、大学では海外ボランティアや留学、大学院ではイギリスに留学することにより、英語力だけでなく考える力や多様な考え方を学び、皆でプロジェクトを回す経験をたくさんできたことが今の国連での仕事のやり方に活きていると思います。
留学と自分の好きな分野を見つけるために色々なことに挑戦すること。学生時代は時間が1番ある期間です。前述の理由で留学は1番有効でしたがそれと同様に自分の好きな分野や専門性を高めたい分野を見つけるための努力は非常にその後のキャリアに影響を与えます。僕は社会起業家に会いに行ったり、海外ボランティアに出たり、農業ビジネスでのバイトをしたりしていました。
イギリスの大学院に行きました。理由は単純に英語力向上、専門性、短期間で修了することでした。早く社会で学んだことをアウトプットしたいと考えていました。
2022年 近東・北アフリカ地域農業組合フォーラムにて出席者の農家組合代表と
なかなか正規職員にパーマネントとして入るのが難しい国連では任期付きのポストが8割くらいなので、そこで次の職につけるような強い専門性、コミュニケーション力と覚悟を持っていることが大切だと思います。
いくつかの戦略があると思います。1つは自分の専門分野の幅を広げて、色々な機関や職種に応募できるようになること。数打てば当たる戦略で生き残ることに特化した形です。もう1つは究極的に専門性を高めて差別化し、その分野の案件なら確実に勝てるようになること。こちらは自分の勝てる領域が比較的狭いリスクもありますが自分のやりたいことが確実にやれる形です。こうした自分のキャリアに合った戦略を練って特化していくことと、自分の希望に合う案件に確実にリーチできるアンテナを常に張っていくことが重要だと思います。
日本の終身雇用と国連の契約ベースの雇用は最初不安になることもありました。ただ。国連に残っている様々なバックグラウンドにいる人に話を聞いて共通することは、常に自ら仕事を動かし成果を出し続けられることだと感じ、そこからは差別化・特化したスキルをいかに高めるかに注力することに専念しています。流動生が高い職場にいることは、仕事へのモチベーションになると共に色々な人とのネットワークも増えるのでプラスのことも意外に多いです。
検討します。具体的には民間・国際NGO・JICAなどです。前提として私は国連を優先的に検討しますが、他を検討する場合の理由はいくつかあります。まず国連で自分に希望通りになる職種が出てくる頻度と自分が受かる可能性を検討します。現実的に希望通りの空きポジションが出るのはタイミングや運の要素も大きいですし、やっと出たとして受かる確率も一般的に楽観視できるほど高くはないでしょう。
次に、自分のやりたい仕事が国連以外でもできるかを考えます。やれる場合は国連で働いていた時よりも良いポジションに応募します。そうして、国連以外の職でしっかりキャリア・専門性を高めながら虎視眈々と国連の空きポジションを確認して応募するのも1つのオプションだと思います。
ストレスマネージメントは極めて重要だと思います。なぜなら仕事のアウトプットに直接影響するからです。またストレスがある人の働き方は必然的に周囲に分かってしまいます。そして、ストレスを抱えてる人との仕事は敬遠されることもあります。私が見ている限り国連でうまく仕事を楽しみながら成果を出してる人は趣味や運動、ソーシャルアクティビティなどに積極的に取り組んでいます。私も週に4日はジムで汗を流しに行きますし、国連内外問わず食事に行ったりして健康面・精神面で整えるのとは別に、気の置けない仲間を多く作ることを心掛けています。
2022年 近東・北アフリカ地域農業組合フォーラムにてスピーチを行う
36歳以上だと年齢制限の都合上JPO以外の選択肢で国連に入ることになると思います。具体的にはインターン・UNボランティア・空席応募の3つが主な選択肢で、空席応募が経済的にも役割的にも1番見合う就職法で、マネージャークラスで応募することが自然かなと思います。ただ、正規・コンサルなどの契約形態に関わらず、競争率がとても高く、やはりスムーズに仕事に入れるという点で国連経験がある人が採用されやすい傾向にあります。その中でまず本当に国連でないとできないことが自分の中であるのかを考え抜くことが非常に重要だと思います。なぜなら入るまでの準備や待ち時間や余裕、仕事量のコストが大きいからです。また、なかなか契約任期のある仕事などで不安定な環境に身を置くことや、家族同伴のできない契約もあります。36歳以上の方であれば家庭があったりした場合は、気を使うことも多少なりともあることが多いように思います。私も35歳でJPOになってからいつも自問自答することです。
それでもやりたいことにチャレンジしたいと確信している方にとって、国連業務経験なしで勝つためには大きく3つ検討事項があると思っています。1つ目は応募ポジションです。JPOもそうですが、比較的低いポジション(P2など)からスタートすると競争相手も経験が少ない可能性が高く、比較的優利になり入りやすいです。ただ給料は下がります。2つ目は書類です。これは専門性の高さとそれを効率的に書類に落とし込めてるかが重要です。経験とスキルがあるから受かるわけではなく、それが英語になった時に時間のない読み手にシンプルに伝わるかがポイントです。3つ目はコミュニケーション能力です。私は面接官の経験もありますが、面接や筆記では論理的にすぐに反応できる対応力は非常に重要だと感じます。
私もミッドキャリアとなる33歳の時に初めて国連にUNボランティアという契約で挑戦しました。ミッドキャリアでの国連転職としては、大きくキャリアチェンジとして国連を検討されている方、今までのキャリアの延長としての国連を検討されている方の2つが大きくあると思います。私は後者に当たります。
私個人としてはミッドキャリアでの国連転職を強くお勧めします。理由としては3つあります。1つ目はある程度の専門性を持ちながら、JPOという最も日本人として国連に入る確率が高いプログラムを受けれるからです。36歳以上からの受験は一般公募に応募する形がメインになるので、より一層間口が狭くコストがかかります。2つ目は初めての国連でもプレッシャーが少ない環境からスタートすることができます。本当の即戦力でリーダーとして働くというよりも、アソシエイトとして学びや経験蓄積を主眼とした環境に身を置くことになるので肩肘張らず、やりたいことや興味のある分野に仕事を振り分けてもらえます。逆に言えば責任や役割は初めは少ないところから始まります。3つ目は、専門の経験もありしっかりと自分のやりたい方向が見えている方が多いと思うので向き不向きをしっかり見極めることができます。目標を持って国連に入り、やりたいことがやれる場所を見つけた人には息の長い職場になることが多いように感じます。
個人的には早く国連に入ることよりも、着実に知識や経験を深めた状態で国連に入ることの方がメリットが大きいように思います。周りを見ても30歳前半で入られて息長く残っている方が多いのもそうした理由なのかもしれません。だから20代で国連を目指す方には、まずどんなスキルや経験が自分のやりたいことを実現するために必要なのか、国連以外で身につけられるスキルは何で自身はそれは身につけられているか、国連で他を凌ぐ差別化されたスキルを持っているか、などをきちんと把握した上で自信を持って受けるのが一番だと思います。
2022年 近東・北アフリカ地域合同農業ビジネスワークショップにて、同僚と
私は10代で国連に入ろうと考えたことは一度もありませんでした。むしろ自分には全く雲の上のような存在だと疎遠にしていました。だからこそ、10代で国連に入りたいと思えることは、他の人よりも先に直接関連する経験やスキルを得ることができる可能性が高いのでとても素晴らしいことだと思います。
ただ、まだまだどんな分野に専門を持ってやっていきたいかを見極めるには早い頃だと思います。焦らずに今はどんどん国連で働く上での基礎となる2つのこと「国際的な価値観」と「知識の幅」を広げて欲しいと思います。具体的には、留学などや海外メディアに触れていくこと、自分の興味のある分野の知見を収集すると同時に興味のない分野にもアンテナを張って置くことをお勧めします。なぜなら10代は語学力が比較的身につきやすく、多様な価値観にも柔軟に対応できます。そして、いつでも方向転換ができる年代です。好きなものも常に移り変わる時期です。留学や海外メディアに触れることは簡単な時代で、日本だけの価値観では通用しない時代になっています。多くの見聞があればあるほど今後の将来の選択肢が広がることになり、20代の専門を選ぶ場面で大いに役立つことになります。私は今農業に携わっていますが、10代の頃には見向きもしたことはありませんでした。たまたま20代で配属したアフリカの国で農業の魅力に取り憑かれて今に至りますが知識はまだまだ足りません。もしも農業開発のことを触れてでもいればもう少し色々な角度から将来を検討できたかもしれません。