私の場合はまず大学院を卒業し、開発途上国で環境関連の仕事がしたいという思いから環境コンサル会社に就職しました。そこでは主にケニア及びモザンビークにおいて、都市廃棄物処理や上下水道、環境影響評価、砂漠化対策等の業務に従事しました。フィールドでの業務はどれも本当に興味深く、現地の中央・地方政府関係者をはじめ、様々なステークホルダーとのやりとりを経験できたのはその後の大きな糧となりました。その後、このまま環境コンサルティングを続けていきたいという思いもあったのですが、よりマクロな視点で多国間の環境政策や枠組みの策定に携わりたいという気持ちが強くなり、国連環境計画(UNEP)を目指しました。
私は民間の環境コンサル会社から転職したのですが、アポイントメントの取り方、メールの書き方やフォローアップの仕方、報告書の作成・添削、会議の進め方や話し方などなど、ほぼすべての経験が役に立っていると感じています。今の所属部署は上司・同僚含め全員が常に多忙であり、よほどのことがない限り国連での仕事の進め方を教えてくれることはなく、基本的にすべて周りを観察しながら見よう見まねで業務内容を覚えていくということが多かったのですが、民間での経験があったからこそなんとか対応できたと強く感じています。
ナイロビ市内の朝の渋滞を回避するために朝7時半くらいには出勤するようにしています。午前中の早い時間帯にメールチェックとその日のミーティングのアジェンダを確認し、目を通しておくべき資料等があるかをチェックするようにしています。その後、同僚や上司が出勤してオフィスが騒がしくなるまでの間に報告書作成等のまとまった時間を必要とする作業に取り掛かります。お昼前になると上司や同僚からの急なタスクが殺到するので、なるべく自分の予定を入れず時間を確保しておき対応しています。午後4時頃になると少しオフィスの落ち着きが戻るので、そこから自分の仕事を終わらせたり、語学研修(スペイン語)の宿題をこなしたりすることが多いですね。
2022年 7th International Marine Debris Conferenceの閉会式に同僚と
現在はMarine and Freshwater BranchのSource-to-sea Pollution Unitという部署に所属し、主に海洋汚染、特にプラスチック汚染に関する業務に従事しています。具体的には、各国政府関係者を対象としたキャパシティビルディングのワークショップやウェビナーの開催、プラスチック汚染の生態系や人体への様々な影響に関する報告書作成、海洋ゴミに関する国際会議の準備・運営等、多岐に渡ります。部署名からもわかるように、海洋に流れ出てしまった後のプラスチックごみだけに焦点を当てるのではなく、ゴミとして排出される場所(Source)まで遡り、様々なステークホルダーを巻き込んだ多面的なアプローチをとることに重点をおいた業務が多く、やりがいと感じています。
2022年 7th International Marine Debris Conferenceにて
今振り返ってみると、大学3年時に一年間カリフォルニア大学デービス校に留学できたのでは貴重な経験でした。いきなり現地の学生と交じって講義を英語で受けたり、南米やアフリカ、東南アジア出身のほかの留学生と交流したりする中で、知らないうちに柔軟なコミュニケーション力が身に付いたのではないかと思います。異なる文化のユーモア、盛り上がる話題やタブーなトピック、ボディーランゲージ、会話のテンポ・間、感情の表現方法等は国や地域によって本当に様々であり、それらを肌で感じることができたのは非常に有意義であったと思いますし、現在の業務でも活かされています。
私は学部までを日本で過ごし、大学院をカナダのモントリオールで過ごしました。モントリオールに進学したのは、北米の雰囲気、特にフランス語と英語が交じり合うモントリオールが非常に魅力的だったことと大学院のプログラムが興味関心に一番近かったことが主な理由です。授業はフランス語でしたが、テキストは英語のものを使っていたりして、常に二か国語にさらされていたのは良い経験だったと思います。またクラスメイトの出身国がフランスはもちろん、北アフリカやカリブ海地域等多種多様で、授業内の議論で彼らから様々なケーススタディが紹介されることも多かったのが印象に残っています。
任期付きのポストはたしかに中長期的な計画が立てづらく、ストレスを感じることも多々あるのですが、変えられないものについて悩んでもしょうがないので、ある程割り切って自分の能力を高める機会としてとらえるようにしています。自分の場合は、次のポストで必要となりそうなスキルや経験を把握し、それらに関する研修を受けたり、関連業務を任してもらえるかを上司に相談したりして、能力の向上を図っています。普段の業務をこなしながら、プラスアルファで次のポストの準備をするのは大変ですが、自分が今おかれている環境でできる範囲の準備をしているという自信がこのような契約形態に対応するための心の安定につながっていると感じています。
上司や同僚から突然振られる仕事、人間関係、次のポスト獲得に向けた競争等、ストレス要因はたくさんありますが、その中で自分にコントロールできる範囲を常に考え、それ以外のことはどう転んでもしょうがないという風に割り切ってしまうようにしています。責任感があることは重要ですが、なんでもかんでも背負いこんでしまうと、様々な価値観を持つ人が働く国際機関ではすぐに疲れてしまい、あまり効果的ではないことが多いと個人的には思います。あとは、どんなに疲れていても運動の時間は必ず確保し、身体とメンタルのコンディショニングを怠らないようにしています。
2022年 7th International Marine Debris Conference後に同僚と
2022年United Nations Environment Assembly (UNEA) 5.2のモニュメント(Giant Plastic Tap )
国際分野でのキャリアと言っても幅広いのですが、自分の場合はやはり英語とその他の第二外国語のスキルを磨くことと、開発途上国での業務経験を積むことに特に集中していました。英語以外の外国語ができると、特定の言語を必要とする、比較的倍率の低い国連のポストに応募できたり、部署内でなかなかほかの人に任せられない業務を担当できたりと、国際機関でのキャリアを形成していく上で非常に有利であると感じています。また、自分の開発途上国での経験は、今でも様々なステークホルダーとのコミュニケーションに役立っていると感じています。
外国語を業務で毎日ストレス無く使えるようになるまでは時間がかかるので、英語の能力を高めるのはもちろんのこと、少しでも早くそれ以外の第二外国語の習得に注力するのが良いと思います。また、異なるバックグラウンドの人と積極的に話したり交流したりする機会を探し、自分とは根本的に異なる価値観への柔軟な対応力を若いときから磨くことも重要かと思います。