外務省 国際機関人事センター

トップページ> 日本人職員のインタビュー集> JPOインタビュー記事> 国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部 社会保障担当官 百瀬 雄太 氏

国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部 社会保障担当官
百瀬 雄太 氏

百瀬 雄太さん
1.国際機関で働くまでの経緯を教えてください。

国際協力や国際機関での勤務に興味を持った時期やきっかけ

国際機関などのグローバルな環境で働くことへの憧れは小学校、中学校の頃から思っており、実際に大学時代にバックパッカーとしてアジア、アフリカ、中東、中南米と訪問し途上国の現状を見て、漠然と開発援助を仕事にしたいと思っていました。具体的に国際機関を志したのは、JPO前職のNGO(特定非営利活動法人ジャパンハート)にてミャンマー事務所の駐在代表として勤務していた経験からです。※特定非営利活動法人ジャパンハートは、ミャンマー、カンボジア、ラオスで日本人専門家を派遣した医療活動、養育施設運営、視覚障がい者への職業訓練、国際緊急救援等を行う団体です。

国際機関での就職を志した動機

NGOの駐在代表としてミャンマーにどのような援助が必要かを調査し考える中で、ミャンマーへの国際援助が必要な点の1つに、障がい者などの弱者に対する政策作りがあると考えました。ジャパンハートでは視覚障がい者の職業訓練校を運営していましたが、ミャンマーのような国では先進国、例えば日本などと比べると、障がい者の雇用を促したり、障がい者を社会的に守る法律や政策がないと感じ、それがミャンマーの障がい者が社会で活躍できない大きな理由であると感じました。歴史的にもミャンマーは植民地からの独立以来軍事政権であったため、そのような法律や政策を作る機会がなかったと理解しています。当時2016年のミャンマーでは、2010年ごろからの経済改革で少しずつ発展し、多少なりとも軍事政権時代よりは教育や医療、貧困事情などはよくなっていましたが、例えば障がい者への政策などはこれから作っていく段階でした。
 その中で、NGOとしてミャンマー政府(社会福祉・救済復興省)と政策立案委員会を立ち上げ、障がい者の政策を作る議論を主導しました。他国の同様な事例を調査し、またミャンマー国内の現在地を調査し、ミャンマーにとってどのような制度であれば実現可能なのかを自ら考え、時に法律/政令の草案をドラフトし、それを社会福祉省の大臣などはじめ、労働省、法務局、保健省の方たちと議論をしました。国の政策立案者と仕事をすること、国のベースになる政策作りへの面白さを知り、今後のキャリアとして発展途上国における社会的弱者の社会参画を促進したり、社会的弱者を保護する政策作りを行いたいと考えるようになりました。
 ただ、NGOとしてそうした取り組みを行う中で、途上国の政策立案支援は国際機関が多く手掛けており、国際機関の知名度、予算規模、専門性などを通してこそ影響力のある政策を作ることができるのではないか、と感じ、国際機関への就職を具体的に考えました。

国際関係(省庁、シンクタンク、財団など)、国際協力(NGO、JICAなど)、海外勤務(民間で駐在やグローバル企業での勤務)と様々な選択肢がある中で、国際機関を選んだ理由

正直なところそのような理由は後付けで、いずれにしても、昔感じた憧れから何らかの分野で国際機関で働くことを目指していただろうとは今では思います。ただ、開発援助の仕事をする中で、Social Policy, Social Protection という分野での政策を作っていく人材になりたいと思い、具体的にどのような機関に入りたいか、国際機関で何がしたいかというのが固まってきたのがこのミャンマー駐在時です。

現在の勤務先を選んだ理由

Social Protectionを行う機関はILO, UNICEF、その他開発銀行と限られていたので、そのどこかにまずは入りたいと思っていました。中でもILOは現地政府と話しながら、社会問題に関する国際条約、国際基準を作る機関と認識していたので、途上国や国際的なルール・基準を作る組織であるILOには強い憧れがありました。

他セクターから転職することで役立った経験(民間、NGO・NPO、省庁など)

NGOでのミャンマーに駐在して政府とともに政策立案委員会を立ち上げて自分の手で政策を作ろうとした苦労、途上国の政策立案が実際にどのように動いているのか、またその難しさを感じることができたことは、現在国際機関の本部でどうやって政策を作るかの話をする上で非常に良かったです。
 またNGOでは途上国の社会問題を現場に足を運び調査することができたため、実際の自分の経験として途上国の医療問題、障がい者への社会保障がどうなっているのかという、なかなか現場にいないと掴みづらい知見を得ることができたことは、具体的な世界の状況のイメージを持つために貴重でした。
 また、NGOでは若くてもマネジメントの経験をすることができます。そうした経験ができたことも将来のポスト獲得においても非常にいい経験になると理解しています。

2.現在の業務について教えてください。

平均的な一日の流れ

8:00 出勤・フランス語レッスン(オンライン)
8:30 メールチェック・午前は障がい者の社会的保護政策に関する論文執筆、データ分析に集中
12:00 ランチ(ILO食堂で同僚と)、通常はそのまま同僚とコーヒー
14:00 Unit MTGもしくはDepartment Meeting。今週にやる仕事の内容等について共有。隔週で社会保障の個別のテーマのフリーディスカッション。
15:00 介護保険×社会保障に係るWebinar開催に向け、共催するISSA(International Social Security Association)の担当者とMTG
16:00 障がい者政策に係る各国の国家予算のデータの有無等、計算方法についてデータ局とMTG
16:30 International Disability Allianceとバングラデシュでの障がい者団体への研修に向けたMTG。ILOとして出張して研修を行うかどうか検討
17:00 医療保険の論文の編集を行う外部コンサルタントとの契約書類を準備
17:30 UNICEFニューヨークの社会保障専門官(障がい者担当)とILO-UNICEFで共同で進めている障がい者×社会保障のプロジェクトの進捗をMTG
18:00頃 退社。退社後に妻と1時間散歩、運動するのが日課です

具体的な主な業務内容

上記一日の流れの通り、様々な案件に並行して関わっているのですが、主担当業務の1つに障がい者の社会的保護政策に関する論文執筆、データ分析があります。私の所属する部署は、社会保障のあらゆるテーマ(医療保険、年金、雇用保険など)を扱っていますが、その中でも私は障がい者を担当しています。フィールドオフィスとは異なり、ILO本部ではそうしたデータ分析、レポートの作成が業務としては多くなります。
 ILOは独自で世界各国の障がい者への社会保障データを取りまとめています。例えばバングラデシュではどのような制度の障がい者支援を行っているのか、受益者の数、その予算規模などあらゆるデータが内部に揃っています。そうしたデータを分析し、障がい者への社会保障の内容、金額、また国の障がい者政策への財源使用の十分制等がILO基準および国連障がい者憲章等に則っているのか等に関するレポートを執筆しています。例えば、障がい者手当は仕事をしながらでももらえるのが国際基準であるが、それに則っていない国も多いです。また多くの途上国では形式的な障がい者手当を出している国も多く、障がい者が障害手当だけで生活することは著しく困難なことも多いです。
 SGDsの動きとともに、障がい者に関する社会保障はここ10年で改善されてきていますが、世界全体でどのような給付水準になっているのかという研究はあまりされていません。こうした世界各国の障がい者に対する支援政策をILOは定期的に各国から収集している強みを活かして、そうしたデータを分析して、現在障がい者政策が世界でどのようになっているのかを明らかにするレポートを書いています。レポートを書くという業務ではありますが、障がい者政策に関する専門家とのMTGでの内容すり合わせ、データ局とのデータ収集の背景や読み取り方、また障がい者政策といっても医療や労災からなる障害などを扱う場合はその分野の専門家との話をするなど、様々な関係者との調整やヒアリングを経て、レポートを書いています。

ワークライフバランスの保ち方

国際機関では他の多くのスタッフはワークライフバランスをかなり意識して働いており、そのペースで適切なメンタルコントロールや休息をとりながら働くことに意識的に合わせていく必要があると感じています。ジュネーブに滞在できるメリットの1つは、格安航空券でヨーロッパのあらゆるところに安く旅行できることです。1つでも多くの国を訪問できることを目標に(現在通算68か国訪問しました)週末に積極的にいろいろな場所に行くようにしています。家族でこうした旅行ができることで、週末に相当リフレッシュできるので、週末明けの仕事のパフォーマンスも高くなると感じていますし、こうした楽しみが自分自身の力になっています。

百瀬さんの写真1 ILOの同僚とInternational Labour Conferenceのブースにて     

ILOの同僚とInternational Labour Conferenceのブースにて

3.学生時代についておしえてください。

百瀬さんの写真2 所属するチームのUnit MTG      

所属するチームのUnit MTG

大学や大学院などの進学先を選んだ理由(国内外、英語圏、仏語圏、欧州、アジアなど)

大学院入学前はミャンマー・カンボジア・ラオスで4年ほど社会政策立案の実務に携わってからの進学であったため、アジアという文脈で政策立案を学ぶことができる環境ということでシンガポール国立大学Lee Kuan Yew School of Public Policyを選択しました。一定の実務経験が必要なミッドキャリアプログラムに入学し、アジア中の政府高官がプログラムに参加するという特徴を活かし、アジアの多くの国での政府役人と繋がることができたことは、今後いつかアジアに戻ったときに貴重な人脈になると考えています。公共政策の分野ではアメリカやイギリスに留学する人が多かったですが、今後アジアで活動する人脈、アジアという文脈で勉強したかったので、シンガポールを意識的に選びました。

学費や生活費の工面について(奨学金、貯金など)

実務を一度挟むと奨学金受給への競争力が高くなると思います。私は幸いにもロータリー奨学金を受給することができました。ロータリー財団はいろいろな名前の奨学金がありますが、私は「グローバル補助金」という制度を使ったロータリー財団奨学生として大学院に行かせて頂きました。ロータリー財団の奨学金を受けることで、授業料、生活費を心配せず大学院を修了できたことは、本当に幸いだったと思っています。ロータリー財団の奨学金の特徴として、現地でのロータリー財団の方と繋がる機会が多いというメリットもあります。留学先の国のコミュニティに関わることは難しいですが、ロータリー財団を通してシンガポールの様々な財界の方にお会いできたことは貴重な機会でした。

4.今後のキャリアパスについて教えてください。また、異なるライフステージ毎に直面
  
するであろうイベントとの両立について教えてください。

任期があるポストに就いていることについてや、職探しについて

JPOでは幸いにも国際機関の本部で働ける経験を得ました。国際機関の本部ではどのように国際基準やILOとしての考えを作るのかを理解し、また本部での人脈形成、ILO の文書作成などの慣習に触れたことは、今後の国際機関での職探しにおいてプラスになると思います。
 一方、次の目標として、いつかは国際機関のフィールドオフィスで働くということで目標や夢が続いています。本部のJPOポストは任期があり、また特にヨーロッパの人が強い組織の本部で働くこと、日本の雇用形態と全く違うことも含め、次にポジションを獲得できるのか時に不安になるときもあります。ただ、今は国際機関本部においてできる限り貢献し、また将来的に現場で活躍する能力をこの本部勤務期間に学び、現場ポストに受かる競争力をつける、ということで前を向いて取り組まなければいけないことも多いです。個人的には、ILOレポート作成時のライティング力を特に鍛えるように常に上司から言われていますし、現場に行ってもそうした能力は不可欠だと思います。なので、不安を考えるというよりも、前に向かうためにできること、やらなければいけないことが多くあり、職探しはそうした準備の延長線上にあるものと思っています。
 また、常にキャリアの悩みなどを相談できる環境を作るように努力し、幸いにも何人かの上司とはいつもそうした話をさせて頂いています。上司もJPO出身であれば、どんな国のJPOであっても同じような苦労や悩みを抱えていた経験があるので、積極的にそうした話をしながら、ストレスマネジメントもしつつ、あらゆる可能性を探っています。

5.アドバイスをお願いいたします。

百瀬さんの写真3 ILOオフィスにて      

ILOオフィスにて

20代で国際分野でのキャリアを目指している方へのアドバイス

私の場合は、大学卒業後、新卒で日本で経営コンサルタントとして勤務していましたが、民間企業において国際機関などでも活躍できるような強い専門性を得ることは難しかったです。そこで待遇などは民間企業には劣りますが、25歳のころにNGOに転職してミャンマーでの勤務を開始しました。実際に現場での勤務を開始すると、多くの専門性を得る機会が広がり、途上国での働き方がよくわかってきました。日本での新卒で入った会社を辞め、早い時期にミャンマーに行って本当に良かったと思っています。私の場合は、NGOという開発援助を行う組織にキャリアチェンジしたおかげで、国際機関でやっている業務に近い仕事をする機会が多くありました。日本で働いているところから現場に飛び込むことは、経済面、雇用の不安定さから迷うところも多いと思いますが、このリスクをとることで国際機関への道が近づくのではないかと思っています