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UNFPA(国連人口基金) ニューヨーク本部 助産専門官
増田 智里 氏

増田 智里さん
1.国際機関で働くまでの経緯を教えてください。

国際協力や国際機関での勤務に興味を持った時期やきっかけ

看護学生の頃にインドの障がい児施設でボランティアをしたことが最初のきっかけです。初めての途上国での暮らしや、子ども達との関わりを通して、自分自身がこれまで生命を脅かされることもなく、衣食住に満たされ、学びたいことを学ぶ環境を与えられてきたことに気づきました。その当然の権利を侵害されている人々がいると知り、同じ世界に住む者としてこれを傍観することはできないと感じ、健康格差の縮小のため看護の専門性を活かして貢献をすることを決意しました。
数ある保健分野の課題の中でも、低中所得国の妊産婦死亡率の高さは衝撃的でした。何故なら、ほとんどの妊産婦が予防可能な死因亡くなっていること、そして出産は女性にとって新たな家族との喜びに満ちた出会いの場であり、決して命を失う機会であってはならないからです。この状況を改善したいという想いを原点として、日本で助産の臨床経験を約6年間積み、公衆衛生を学び、国際保健の分野での仕事を始めました。

国際機関での就職を志した動機/国際関係(省庁、シンクタンク、財団など)、国際協力(NGO、JICAなど)、海外勤務(民間で駐在やグローバル企業での勤務)と様々な選択肢がある中で、国際機関を選んだ理由/他セクターから転職することで役立った経験(民間、NGO・NPO、省庁など)

国連機関で働くことを志した理由は、健康課題を取り巻く様々な要因に対し構造的でインパクトの大きいプロジェクトに参画出来るからです。私はこれまで訪れてきた低中所得国で、出産中に赤ちゃんが亡くなる事例に何度か立ち会ってきました。どの出産も、妊娠には異常なくリスクの低いケースでしたが、母親や家族の知識不足、女性の行動制限、妊婦健診や出産時ケアの提供不足、器材と薬剤の不備、施設までの距離や搬送手段の欠乏といった様々な因子が重なりあい、赤ちゃんを救うことができませんでした。医療施設や地域レベルで出来ることも沢山ありますが、国連機関のプログラムを通して、政府と向き合い他の機関と連携しながら保健政策や医療者の教育体制に介入し、持続的かつ質の高い保健サービスが提供出来るよう尽力しています。
私のキャリアの核を成しているのは、約6年間の助産師としての臨床経験です。病院で、女性、母親、赤ちゃん、家族一人一人と向き合って来た経験が、現場を離れた今でもn=1にどのようなインパクトを与えることが出来るのかを考えるための糧となっています。これまでの国際保健のキャリアの中で、NGO, JICA, 大学など様々なセクターで働いてきましたが、どの経験も今の国連の仕事につながっています。特に途上国のフィールドで、自分の足で現場に出向いて、自分の目で提供されている医療ケアを観察して、自分の耳で地域の人達や女性達に耳を傾けてきたことは、どのようなプログラムや政策が現場に届くのかを考えるためにとても有意義で、仕事をするうえのモチベーションにもつながっています。

増田さんの写真3 Midwifery school Cambodia 2022年 カンボジアの助産学校の実習施設にて、実習教材のニーズ調査      

Midwifery school Cambodia 2022年 カンボジアの助産学校の実習施設にて、実習教材のニーズ調査

現在の勤務先を選んだ理由

国連人口基金(UNFPA)のミッションである「すべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に行われ、全ての若者の可能性が満たされること」は私の活動原点と重なり、かつ助産師としての専門性を最大限に活かせる機関だからです。また、母子保健分野でのキャリアを描き出した頃、女性と赤ちゃんが安全に安心して出産するためには、そのサポートをする助産師自身が安全に、楽しく、誇りを持って働けることが大切で、助産師の人材育成とサポートを出来る仕事に就けないか考えていました。私自身、新人助産師の頃には、先輩に指導を受け、同僚に支えてもらいながら、医師や他職種と連携し、研修でスキルを磨きつつこの仕事のやりがいを見つけてきました。UNFPAには、女性と赤ちゃんを守るために助産師をサポートする「助産プログラム」があり、世界各国の助産教育や助産師協会、政策策定を支援しています。現在UNFPAは4年目となりますが、このプログラムで働き続けられていることはとても光栄で、これからも助産プログラムを通して世界中の助産師を支えていきたいと考えています。

JPO派遣制度に応募するにあたり、準備した点、心がけたことなど

書類の準備については、先輩方に添削をいただきながら、どうして自分のキャリアが応募するポストに適しているのか、その組織や国事務所にどのように貢献できるのかを考慮しながら用意しました。ToRだけではなく、応募する組織や国事務所でどのようなプログラムが展開され、どんなストラテジーや計画を掲げているのかを調べると良いと思います。一方、これは運もありますが、まるで私のために書かれた運命のToRに出会えたことが何よりも大きかったと思います。

2.現在の業務について教えてください。

増田さんの写真2 Community Sudan 2020年 スーダン・ハルツーム郊外のコミュニティ訪問先にて     

Community Sudan 2020年 スーダン・ハルツーム郊外のコミュニティ訪問先にて

平均的な一日の流れ/具体的な主な業務内容/国際機関で働く上で意識していることや心がけていること

助産専門官として、国事務所では助産カリキュラムを国際基準に沿って改訂したり、助産学校の実習室の設備投資、助産学校の先生や実習指導員の教育、現役助産師への研修を実施したりしていました。また、助産人材の質と医療安全を担保するための助産師規定の見直しや、助産師協会の支援など、助産師が専門職としての地位を確立するサポートもしていました。興味がある方は、是非UNFPA東京事務所ホームページ(外部リンク)「国際機関で働くには」のフィールド便りから、スーダン便りをご覧ください。
会議やワークショップが業務の大半を占めますが、保健省、病院施設長、産科医師、助産師、他の国連組織や開発団体とじっくりと現場の課題と解決策を話し合うことは、その国や地域に根付き、彼ら自身が責任を持って実践できるプログラムを作成するためにとても大切な過程です。最も私が好きだった仕事は、勿論現場に向かうことです。病院や保健センターでは、臨床で働く助産師や医師に課題を聞きつつ、分娩室など施設を直接訪れてどのような支援が必要なのかを自分の目で確かめることができます。地域では、村の女性や母親たちに結婚から妊娠子育て、仕事や家庭内の環境について話を聞き、家を訪れ、彼女たちの人生に触れることが出来ます。私は医療の専門家ですが、フィールドワークは教育、環境、経済、ジェンダー、伝統的なしきたりなど、広い視点で課題を捉えることのできる大切な学びの機会です。

海外勤務の中での気分転換法やリラックス法/ワークライフバランスの保ち方/問題に直面したときの対処法

身体を動かす機会を何らかの形で作ること、仕事と家庭の調整と同じくらい、趣味や仕事外のコミュニティに参加することにエネルギーを費やすことが大事だと思っています。問題に直面したときには、色んな人に相談するようにしています。そのためのネットワーク構築は資本で、尊敬できるメンターや先輩には積極的にアプローチして、助言を仰いでいます。

3.学生時代についておしえてください。

学生時代(中高、大・大学院)に積極的に取り組んだこと/学生時代にしておいて良かったこと

どんな仕事をして、どこの職場に就くかに関わらず、専門性を身に付けること、そしてその専門性を持って何をしたいのか、何故それをしたいのかの原点を見つける(経験する)ことが大切だと思います。仕事で行き詰まった時、キャリアに迷った時、常に原点に帰って、それを成し遂げるためのベストの選択を選ぶようにしています。

インターン経験があれば、応募までの経緯とインターン経験について

大学院時代に、W H Oでインターンをしました。カリキュラムの必須単位でしたが、国連機関でのインターンを希望し、いくつかの機関や国事務所に応募をしましたが最終的に知人のネットワークを通してW H Oフィリピン国事務所の母子保健部門に入ることが出来ました。
最新のグローバルアジェンダや科学的根拠に基づくガイドラインがどのように国に落とし込まれるのか、そのプロセスと課題について学びながら、病院や地域に足を運び現場の課題にも触れさせてもらいました。

増田さんの写真3 Health center Sudan 2019年 保健センターの助産師さんたちと共に      

Health center Sudan 2019年 保健センターの助産師さんたちと共に

大学や大学院などの進学先を選んだ理由(国内外、英語圏、仏語圏、欧州、アジアなど)/学費や生活費の工面について(奨学金、貯金など)

自分の研究したかったテーマを研究している指導教員に出会えたことが、進学した大学院を選んだ理由です。長崎大学は、全て英語での学習で、クラスメイトも半分はアフリカやアジアからの留学生で、日本にいながら国際的な環境で学べる理想的な進学先でした。在学中は、文科省のトビタテJAPAN,リンガーハット財団から支援を受け、また成績優良者への学費免除制度も利用しました。

4.今後のキャリアパスについて教えてください。また、異なるライフステージ毎に直面
  
するであろうイベントとの両立について教えてください。

任期があるポストに就いていることについて/職探しについて/日本の雇用形態とまったく違う契約形態で勤務を継続することについて/国際機関職員以外の選択肢について(検討することはあるか、検討しているかなど)

任期のある、または短いポストに就いていることは、常に職探しをしていることになるので正直に言って大変です。一方、短いサイクルで自分が何をしたいのか、どの道にすすみたいのか、そのためにどのようなスキルを身につけなければならないのかを考えることは、自分のキャリア形成にとってとてもプラスになります。キャリアと人生を長い目で捉えて、やりたいこと、得意なことを、どんな形であれこれからも続けていきたいと考えています。

ライフステージ毎のキャリアの選択について/ストレスマネージメントについて(体調管理など)

これは現役国際機関職員としてではなく、助産師としての回答です。いつ、誰と、どうやって子どもを持つか、持たないかは、その人自身及びカップルが選ぶ権利があり、異性のカップルが出産適齢期に子どもを持つという伝統的な家族の形を超えて、広い視野でこの権利について考えてほしいと思っています。どこでも、何歳でも、キャリアのどのステージでも、産むべき・産まないべき理由はなくて、その場所と時にあった支援が必ず存在しています。卵子凍結、不妊治療、途上国での妊娠出産子育て、単身赴任、シングルマザー・ファザーや養子縁組など、情報収集やピアサポートのネットワークを見つけて、どうしたら自分とパートナーの人生に沿った選択が出来るか、選んでいけるといいのではと思います。

5.アドバイスをお願いいたします。

水野さんの写真4 Japan partnership Cambodia 2022年 日本政府補正予算プロジェクトのローンチイベントにて      

Japan partnership Cambodia 2022年 日本政府補正予算プロジェクトのローンチイベントにて

10代の方へのアドバイス/20代で国際分野でのキャリアを目指している方へのアドバイス

焦らず、心から自分が貢献したいと思えることを見つけてください。出来れば、自分の6感で感じる経験があるとよりよいと思います。語学も、専門性も、原点さえあれば必ず後からついてくるはずです。