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UNDP, Regional Bureau for Africa, Regional Service Center for Africa, Regional Programme (out posted from RBA, TICAD Unit)  UNDPアフリカ地域事務所 TICADコーディネーター
小林 佑輔 氏

小林 佑輔さん
1.国際機関で働くまでの経緯を教えてください。

国際協力や国際機関での勤務に興味を持った時期やきっかけ

大学では物理学科に所属し、大学院においても惑星科学の研究に従事していました。そのまま博士課程に進学し研究者になるべきか悩んでいた時期に、友人と東南アジアを旅行する機会がありました。理系の研究ばかりしていた私にとって、初めての開発途上国で見聞きしたことは非常にインパクトがありました。特に、カンボジアでの近年まで続いた長く悲惨な内戦の話や、健気に明るく働く子供達の姿は、それまで感じることのできなかった世界の現実として私に突き刺さり、その後の人生において何をすべきか再考するきっかけとなりました。

惑星科学の研究も宇宙が好きであっただけでなく、将来の人類のために必要との思いから選んだものではありますが、現場に行くことはできず多くの人生を研究所の中で過ごすキャリアとなります。しかし、カンボジアでの経験を経て、自分が現場に出て多くの人々と関わりながら、次世代の人々のために世界を少しでも良い方向に変える仕事もあるのではないかと考え、開発協力への貢献へと人生の目的の舵を切りました。(世界の平和と安定がなければ、多くの優秀な科学者を育成する機会も失われ、ひいては将来のための科学や惑星探査等の研究を発展させることはできない、と考え、開発協力への貢献が将来の惑星科学の発展にも繋がるという思いも理由の一つです。)

惑星科学での修士取得後、そのまま国際協力・開発経済を学ぶため改めて大学院に進学しました。開発途上国での現場経験を有する教授陣やJICAからの講師の先生から多くを学び、またフィールドワーク等を経験することで、国際協力・開発協力をライフワークとしたいという思いを強くしました。

国際機関での就職を志した動機/国際関係(省庁、シンクタンク、財団など)、国際協力(NGO、JICAなど)、海外勤務(民間で駐在やグローバル企業での勤務)と様々な選択肢がある中で、国際機関を選んだ理由

大学院にて開発を含む公共政策を司る国と地方の政府組織の能力強化が重要であることを学び、行政組織とは何かを理解し現場での経験を得たいと考え、東京都庁に入職しました。市民、企業、民間団体、地方行政、国、政治、予算、アカウンタビリティなど複雑な要素が絡み合う行政にて5年経験を得た後、開発協力の現場に出て学び貢献したいと考え、JICAの青年海外協力隊に参加しました。

西アフリカの国、ベナンの地方の福祉行政機関での2年間の草の根活動と現地の生活経験は、学びの連続でした。現地の同僚との仕事の進め方、職場に支援を求めにやってくる障がい者や家庭内暴力の被害にあった女性や子供たちへの支援、地域を良くしようと活動する若者との協働等に対して、自分ができることは何か考えもがき楽しくも苦しいものでした。次第に、もっと国が行政制度を改善して現場の職員が十分に地域に貢献できるような上流への支援や、予算をもって人々への中長期的なインパクトのあるプロジェクトの実施に関わりたいという思いが強くなり、二国間開発協力の実行を担うJICAにて働くことを選択しました。

フランス語圏アフリカで数少ない東アフリカの国、ジブチは小国でありながら地政学的に重要な国であり、欧米、中国、中東からの軍事的、経済的な支援が集まっています。私はJICAジブチ事務所(2019年当時は支所)の企画調査員として、主にJICAがジブチ政府と実施する技術協力プロジェクトの現場での企画、運営、管理を担当していました。着任後半年でコロナ禍に突入してしまったため、プロジェクトの進行が遅れたり、再設計したりしなければならない状況ではありましたが、日本人専門家とジブチ政府を繋ぎ、実際にプロジェクトによるアウトプットが積み上げられていくことに貢献できたことに遣り甲斐を感じました。一方で、JICAによる支援は、リソースが限られていたり、他の開発支援機関との協力を可能とする柔軟性に乏しいという弱点もあり、国際機関が実施するようなより多くのアクターを巻き込んだ持続的でインクルーシブな支援への貢献に興味を持ちました。

現在の勤務先(特定の国際機関)を選んだ理由

地方行政のガバナンス強化への貢献という視点から、セクター横断的な開発課題に取り組み、他の国際機関を巻き込む権限の根拠を有し(SDGsの先導役として)、パートナーとなる国の制度や開発計画策定と実行にも大きく関与する機関である、UNDPにて学び、経験を得て、その任務の遂行に貢献したいと考えました。消極的な理由として私は、教育、環境、人道支援、文化や人口、保健等の専門分野を持っておらず、セクター横断的なプロジェクト支援や関係者間の協力強化の経験が多いという点もあります。また、UNDPは開発協力のための新たな戦略を立てて実行することに長けているので、グリーンやデジタル、さらには新たな科学技術を活かしたプログラムの推進には、私の以前の理系で培った能力が活かせる機会もあるのではと考えました。

小林さんの写真1 共催者であるUNDPの現地コーディネーションを担当したTICAD8の会場にて      

共催者であるUNDPの現地コーディネーションを担当したTICAD8の会場にて

他セクターから転職することで役立った経験(民間、NGO・NPO、省庁など

現在役に立っているのは都庁時代の経験では、基本的なPDCAや予算などのプロジェクト管理及び、中立・平等の公的機関の理念に従った業務上の判断、そして政治的な判断が及ぼすプロジェクトへの影響といった、国際機関で働く上でのベースとなる理解が身についていることで、組織の中で組織の方針と一致してスムーズに業務にあたれています。
また、東京での業務経験やJICAジブチ事務所での業務経験から、日本のパートナーがどのように考え、動いているのかを知っていることは、現在の業務に活かせています。

JPO派遣制度に応募するにあたり、準備した点、心がけたことなど

応募するポストの業務に関する情報をできるだけ集めて、自分の知識・経験がそのポストでの業務に貢献できるポイントを明確化しておくこと。これは書類作成だけではなく、面接対策として重要。

2.現在の業務について教えてください。

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UNDPチュニジアのTICAD8開催への貢献に対して、在チュニジア日本大使館より在外公館長賞が授与されたレセプションにて (当時の在チュニジア特命全権大使清水大使とUNDPチュニジア常駐代表及び同僚と)

具体的な主な業務内容

現在は、UNDPアフリカ局のアフリカ地域事務所(アディスアベバ)の地域プログラムチームに所属していると同時に、同じアフリカ局の本部(ニューヨーク)のTICADユニットの一員でもあります。TICADユニットは、その名の通りTokyo International Conference on African Developmentを通じた日本とアフリカ各国の協力関係の強化によるアフリカでのSDGsとアフリカ連合のアジェンダ2063という開発目標への貢献を、TICAD共催者のUNDPとして促進する役目を担っています。

私の主な役割は、日本政府の支援によりUNDPがアフリカにて実施しているプロジェクトのモニタリング及びプロジェクトを実施している各国のUNDP事務所の各種サポートです。これはTICADユニットがニューヨークから実施してきましたが、私は現場に近いアフリカ地域事務所からこの業務をサポートしています。また、各国でのプロジェクトに加えて、UNDPアフリカ局が実施するまたは実施を計画している広域プロジェクトに日本を含むTICADのパートナー(公的・民間の両セクター)からの協力を得られるように調整することも現在の役割となっています。

国際機関で働く上で意識していることや心がけていること

日本人としての価値観や仕事の進め方は国際機関の業務を遂行する上で非常に有効です。しかし、国際機関は世界各国から様々なバックグランドを有する同僚、ドナーがおり、またプロジェクト実施パートナーの国の文化や政府の考え方も多種多様です。そのような環境の中で働く上では、相手の意見を尊重した上で、柔軟に協力形態をそれぞれの場面で変化させなくてはなりません。正直、それを頭に入れておいても、相手の行動や発言が理解できないこともありますので、うまくストレスを定期的に発散させておいて健康な心で相手と向き合えるようにすることが大事だと感じています。

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アフリカ連合委員会(AUC)のパートナーシップ担当部長とのミーティングにて(AUCパートナーシップ担当部とUNDP TICAD Unitの同僚と)

国際機関で働く前に準備や対策をしておけば良かったこと

学生時代に国際機関でのインターンを経験していれば、国際機関で働くためには何が必要か早めに理解し、準備ができたのではないかと考えます。例えば、専門分野の能力強化や、言語やテクニカルなスキルの向上にとってどこで何をするのが効率的かを見極めるヒントがインターン等で得られるのではないでしょうか。

これまでの経験で国際機関での勤務に役立っているスキルや経験

上記での回答に加えて、私として非常に役に立っているのはJICAのJOCVとしてのベナンでの経験です。まずは何よりも、アフリカの支援を必要としている人々はどういう生活をしていて、どういう支援が必要で、どういうことに幸せを感じるかを現地で学ぶ貴重な経験となりました。UNDPでの現在の業務は、現場でのプロジェクト実施ではないため、自分にとって誰のための何のために働いているのかを考えることができる基盤となっています。そして、自分と異なる価値観の文化や人と協働するための柔軟性もJOCVの経験の中で鍛えることができ、おおいに役に立っています。最後に、苦しい環境下でも生き抜ける自信を身につけたことも大きな財産です。

海外勤務の中での気分転換法やリラックス法

運動と言いたいところですが、環境やセキュリティの関係から気軽にはできないので、家族と一緒にいる時間を大切にすることが仕事から頭を切り離して気分転換する方法となっています。

ワークライフバランスの保ち方

国際機関職員としてプロフェッショナルとして24時間365日対応しなければならないという概念は持ちながらも、緊急時を除いては、家族を優先して判断しています。UNDPの多くの職員は各国で働いているナショナルスタッフであり、彼らは非常に家族を大切に過ごしながら仕事に従事しています。UNDPの制度としても、職員のワークライフバランスの向上を図っており、家族との時間も確保しつつ、仕事も効率的に進められる、柔軟な働き方への改革が進んでいるように感じます。

3.今後のキャリアパスについて教えてください。また、異なるライフステージ毎に直面
  
するであろうイベントとの両立について教えてください。

任期があるポストに就いていることについて

もちろん数年後にどこで何をしているか見通しを立てることは難しいという不安はありますが、常に自分のキャリアや家族の都合などに可能な限り合わせて新たな仕事を選択していくことができる発展性はポジティブにとらえています。

職探しについて

常に応募可能ポストにアンテナを張っていなければならないのですが、これと現在の仕事との両立が難しいポイントです。それくらいできるような余裕がなければこの業界に残れないという先輩の意見には納得しています。

時として過酷な、そして危険な地域での勤務について(家族の同伴なし、子どもの学校の問題、配偶者やパートナーのキャリアなども含め)

それぞれの判断だとは思いますが、私の場合はまだ子供が小さいので現在Non Family Duty Stationには応募する予定はありません。UNDPの同僚や他の国際機関の方からも家族と自分の仕事の調整の困難さは聞いていますが、皆さんなんとか切り抜けてこられています。ある機関の国事務所の代表は、お子さんが手を離れてから自分は過酷な任地に赴任するようになったとも聞いております。私も家族のことを第一に考えて、様々な選択肢から次の任地を探したいと考えています。

4.アドバイスをお願いいたします。

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エチオピアの平和支援訓練センターにて(センター長(准将)、在エチオピア日本大使館防衛駐在官、UNDPエチオピア事務所同僚、UNDP TICAD Unit同僚と)

10代の方へのアドバイス/20代で国際分野でのキャリアを目指している方へのアドバイス

フットワークが軽い20代の内に、多くの現場で多くの経験を得ることができるように積極的に行動することを心がけるべきかと考えます(当時の自分にそう言いたいです)。国際協力を知るためのワークショップやインターンなどに参加できる機会も20代の方が多く用意されているはずです。それらの経験を元に、国際協力の分野の中でも自分は特に何をしたいのかを見出し、その分野の経験者(複数人)の話を聞くことが、その後の迅速なキャリア形成の役に立つと考えます。

UNDPでも多くの優秀な20代の方達がインターンやUNVやコンサルタントとして働いています。是非積極的にチャレンジしてください。