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ICAO モントリオール本部 準航空分析官
新井 祥一郎 氏

新井 祥一郎さん
1.国際機関で働くまでの経緯を教えてください。

国際協力や国際機関での勤務に興味を持った時期やきっかけ

子供のころから飛行機が好きで、その影響から海外や国際機関にも子供のころから興味がありました。学部生時代(大学3年次)に交換留学先で、留学生に対して外務省の方が国際機関についてプレゼンを行ってくださいました。そこから明白に国際機関(特にICAO)を将来のキャリアとして意識するようになり、数ある選択肢の一つとしてキャリアデザインをしていきました。

国際機関での就職を志した動機

元々は民間の航空業界しか考えてなかったものの、より世界を舞台に働ける国際関係にも関心があり、私の両方の興味関心を活かして将来的にその組み合わせであるICAOで活かすことが出来ないかと考えたからです。また、国際機関(特に航空分野)における日本のプレゼンス向上に貢献したいと考えたためです。

国際関係(省庁、シンクタンク、財団など)、国際協力(NGO、JICAなど)、海外勤務(民間で駐在やグローバル企業での勤務)と様々な選択肢がある中で、国際機関を選んだ理由

国際機関で働くことだけを想定することはリスクがあるため、他の選択肢も多く検討しました。結果的に世界を舞台に働ける第一志望である国際機関で、JPOとして就くことが出来て幸いでした。加えて、世界の航空輸送データを取り扱えることに魅力を感じました。

現在の勤務先(特定の国際機関)を選んだ理由

上記(1つ目、2つ目)参照。航空輸送に関して高い関心があったため。経済分析の分野で活かせると考えたため。

他セクターから転職することで役立った経験(民間、NGO・NPO、省庁など)

航空に関する職歴。データを取り扱っていた職歴。

JPO派遣制度に応募するにあたり、準備した点、心がけたことなど

JPO応募において年齢制限があるため、なるべく早いうちからチャレンジできるように進学予定等を考えました。早めから対象のポジションを把握し、身に着けるべき職歴や学歴のキャリアをある程度デザインしておきました。失敗のリスクも勘案して、様々な逃げ道(オプション)も用意してキャリアデザインをしました(特に進学先)。

2.現在の業務について教えてください。

平均的な一日の流れ

午前:メールの処理と航空ニュースの確認⇒上司に業務事項の確認⇒部署内の会議⇒昼食
午後:データ分析⇒オンラインダッシュボード作成作業⇒帰宅
デスクワーク業務がほとんどであるため、オフィス以外に外出することはほとんどありません。週2日リモートワーク。

具体的な主な業務内容

・各国から集められた航空輸送データに関するデータ(航空従事者数、航空輸送量等々)収集と編纂作業が主な業務。
・ICAO担当者(主に上級スタッフ)が、各国政府(主に航空局)要人と会議する際に必要なブリーフィングと呼ばれる該当国の航空データを要約した資料の自動作成ツールを作成(エクセルマクロ使用)。手作業工程を大幅削減することで、業務効率の向上に貢献。また事務局本部の要求に応じて、ブリーフィングを随時作成(日本政府向けを含む)。
・Competitiveness Indexのワーキンググループ対応(資料作成、議事録作成等)。
・ATBが毎月更新するMonthly Reportのデータダッシュボード化の検討。Tableauを活用するため、検討をしつつ使用方法の学習を行う。

国際機関で働く上で意識していることや心がけていること

上司と業務を遂行する上で、丁寧に報連相を行い、密にコミュニケーションを取り合って業務遂行するように心掛けております。また、他の同僚にもしっかり挨拶や雑談を含むコミュニケーションをはかり、存在感を示して円滑な関係づくりを意識しております。人によってはぶっきらぼうな方もおりますが、折れないで自分からは積極的に挨拶したりして業務遂行上円滑な関係を(表面的にでも)作れるようにしています。
 組織内では新人ですので、まずは速度より確実な業務遂行を行い、組織における信頼の構築を意識しております。特に多くの数字を扱う業務なので、何度もチェックをして間違いが無いことを確認したうえで、提出するようにしております。

国際機関で働く前に準備や対策をしておけば良かったこと

大学での第二外国語でフランス語を取らなかったことは後悔しております。実務で使うことはありませんが、直属の上司を含めフランス語圏出身の方が多く(ケベック州はフランス語圏)、フランス語を使えた方が更に親身にコミュニケーションを図れると感じております。また、国際機関はフランス語圏に多くの拠点を置くため、他の組織の選択肢を増やすためにも望ましいと思います。

新井さんの写真1 2022年 ICAO総会中の本部ライトアップシーン      

2022年 ICAO総会中の本部ライトアップシーン

これまでの経験で国際機関での勤務に役立っているスキルや経験

・応用力のある英語力(特に会話力)
・データ分析経験や統計知識
・ダッシュボードの基礎知識(Power BI)
・日本組織で求められる丁寧な業務遂行能力や根回し力、コミュニケーション能力は結構国際機関においても重要なコンピテンシーだと感じております。また残業に対する抵抗の少なさが役に立つことも(笑)

海外勤務の中での気分転換法やリラックス法

・家族や友人との飲酒をした団欒
・週末のイベント参加
・スポーツ

ワークライフバランスの保ち方

組織全体がワークライフバランスを重要視しており、自然とバランスよく保てると思います。

スキルアップを目指していること

・ダッシュボードや簡単なプログラミング言語など、業務遂行で役に立つデジタルスキルを向上させること
・公文書のライティング力の向上
・航空輸送知識の更なる獲得
・語学や対人関係、公的な場も含めたコミュニケーション能力

これまでの勤務経験で一番大変だったこと、辛かったこと

本部の勤務であるため、加盟国とやり取りすることが多々あります。そうした中で、組織の方針が加盟国と対立し、その対応を行うことがありました。また私たちの落ち度で加盟国の不評を買ってしまうこともありました。そうした際の、間に立つ立ち位置がかなり精神的に大変でした。特にまだ組織内では新人であるため、知らないことが多く、そこら中に地雷が埋まっているような緊張感がありました。そうした辛い中で問題点を洗い出して情報収集を適切に行い、丁寧に対応し、チームメートと共に妥協点を見出して解決することが出来ました。

問題に直面したときの対処法

上記にある通り、情報不足から問題が拡大するリスクがあるので、問題発生時は特に情報収集には意識して努めます。

言語や必要とされるスキルの習得について。英語の習得方法について、また、英語以外の国連公用語やその他言語の必要性について

4つ目にある通り、フランス語は私の実務では使う必要はありませんが、フランス語圏の方も多くいるのでフランス語を使えた方がベターだと思います。また、ケベック州の公用語であるため、生活でも便利かと思います(国際都市であるモントリオール市内では英語がほとんど通じますが、市外に出ると通じないことも多々)。フランス語の語学学校を無料でも受けられるため、通っております。

3.学生時代についておしえてください。

学生時代(中高、大・大学院)に積極的に取り組んだこと

 元々小さいころから飛行機が好きであったため、航空業界の知識を取り込むことを自然と積極的にやっておりました。それが後々ICAOにも興味を持つきっかけや必要なキャリアデザインを検討する材料になったと思います。好きなことを育てていくことは重要だと個人的には感じております。
 交換留学を目指していたため、英語の勉強には積極的に取り組みました。大学時代当初は英語サークルに所属し、英語力と欠け気味だったコミュニケーション能力の向上に取り組みました。交換留学は大変刺激的で、楽しみつつたくさんの課題に忙殺されたことも貴重な経験でした。

新井さんの写真2 2022年 ICAO総会期間中に自部署アプリケーションの説明シーン      

2022年 ICAO総会期間中に自部署アプリケーションの説明シーン

学生時代にしておいて良かったこと

 大体は満足しております。大学で留学や学習に注力したことは、後々の大学院やJPOのみならず他のキャリア形成にも大いに役に立ったと感じております。第二言語はフランス語にすべきだったと思っております。
 また余裕があれば、学部時代に交換留学ではなく、正規生として留学したかったと後々思いました。とはいえ、田舎の高校出身で当時は周りにあまり海外に直接留学する例は無く情報が限られ、加えて優良海外大学の多くは学費やその他費用も高いため、その可能性は低かったと思いますが・・・(日本の大学で良かった面も多々あるため、一概には言えず)。

インターン経験があれば、応募までの経緯とインターン経験について

学部時代に一般企業のインターンを経験しておりますが、正直特にJPOに影響を与えるものではなかったと思います。大学院生の時に、ICAOの無償インターンに申し込みましたが、残念ながら合格しませんでした。しかし色々と国連関係のインターンの選択肢はあるので、国際機関に興味ある方はぜひチャレンジすべきだと思います。

大学や大学院などの進学先を選んだ理由(国内外、英語圏、仏語圏、欧州、アジアなど)

日本の大学は、交換留学先の選択肢が豊富で優れている大学を中心に受験しました。
オランダの大学院は、英米の大学院よりコストがかなり低いこと、英語が通じること、私の専門分野が強いことから受験しました。結果的に英語が通じる大陸欧州側の拠点として、いろんなところに行きやすく、私の研究でもメリットが多かったため、かなり良かったと結果的に実感しております。

学費や生活費の工面について(奨学金、貯金など)

大学院の学費を自分自身で工面するため、また社会人経験を積むため、学部を卒業後はまずは社会人になりました。ある程度貯金が進み、JPO受験が射程に入った段階で、大学院に進学しました。その間、地元の留学給付型奨学金もいただくことが出来ました。それでも足りなかった分は学生ローンを組んで、現在も支払っております。

4.今後のキャリアパスについて教えてください。また、異なるライフステージ毎に直面
  
するであろうイベントとの両立について教えてください。

任期があるポストに就いていることについて

JPOで現在のポストに就けたことは、夢であったため大変誇りに思っております。一方で、任期付きであるため次を見据えて行動していく必要があり、現在の業務を遂行しつつ次のステージを考えていかないといけないプレッシャーを感じながら、次のキャリアを検討しております。不確実性はリスクであるため、これまでもでしたが、多くの選択肢を用意して、目標としていたことが上手くいかなかったとしても、次に繋げられるように意識して検討・行動をしております。

職探しについて

まずは現在のICAOで働き続けられることを第一目標にしております。確実に業務を遂行して、同僚や組織内外の評価を向上させられるように丁寧な業務遂行と、かつ新しい付加価値を部署に取り入れられることを心掛けております。一方で、ICAOからのP2, P3レベルの公募は非常に少なく、ましてや自分の関連職種は今のところ皆無であるため、危機感を感じております。私の専門分野は経済関係であるため、他の機関も候補に入れ、それもダメだった場合のバックアッププランも十分に想定して、行動できるようにしております。

日本の雇用形態とまったく違う契約形態で勤務を継続することについて

日本の正社員制度とは異なりますが、私の業務はデータ分析に関して多岐にわたっており、現在のところジェネラリストに近い勤務内容であり、契約のJob Descriptionの内容も比較的多岐にわたるものであることから、日本の正社員制度に近い印象です。ただし、契約期間があること、また進退の度に契約が更新されていることは、業務実施内容を明確化することが出来、働く側としてもやりやすいかと感じております。

時として過酷な、そして危険な地域での勤務について(家族の同伴なし、子どもの学校の問題、配偶者やパートナーのキャリアなども含め)

デスクワークだけなので、無し。

ライフステージ毎のキャリアの選択について

既婚ですが、現在子供はいないため比較的楽ですが、今後子供を検討するにあたり両立できるかは不安な部分は大いにあります。国際機関は育休など制度が充実しており、実際に男性上司も数か月の休みを取得しておりICAOも実際に取りやすい環境だと思います。一方で言語の問題もあり、実際に私たち自身が両立できるかは検討課題です。
また、両親が高齢者であるため、介護を含めた将来的な可能性については不安があります。そういったライフイベントは考えればきりがないので、その都度機微に対応していくことが最適解だと考えております。現状としては貯金等を増やして今後のリスクに備えております。

国際機関職員以外の選択肢について(検討することはあるか、検討しているかなど)

もちろん希望しても国際機関で働き続けられない可能性は大いにあるため、国際機関以外で働くことも選択肢(バックアッププラン)として検討しております。私の専門分野が航空・経済関係であるため、それに即した選択肢を検討しております。しかし私としては、ICAOに残ること、もしくは他の国際機関をまずは第一志望として想定しております。

ストレスマネージメントについて(体調管理など)

スポーツが好きであるため、週末は友人と運動を積極的に行ってストレス発散や体力維持に努めております。また妻と時々小旅行にも出かけて、お互いのストレス発散につなげております。

5.アドバイスをお願いいたします。

20代で国際分野でのキャリアを目指している方へのアドバイス

様々な制約にくじけそうになることもあるかと思いますが、焦り過ぎず、しかしくじけないで必要なスキルややるべきことを淡々とこなしていってください。周りの話を聞き過ぎると、うまくいかないこともあることも結構ありました(とはいえ20代以上では現実を見据えることも重要ですが)。私自身は働いているときに、職歴がどんどん目指すべき対象から離れていく不安がありましたが、結果的に自分を信じてゴールを修正しつつ上手く進むことが出来ました。パンデミックもあって色々と先が読めない社会になりましたが、機微に対応していけることが大切です。

新井さんの写真3 2023年 カナダとICAOの旗      

2023年 カナダとICAOの旗

10代の方へのアドバイス

早い時期から高い志を持つことは、後々のキャリアデザインを検討する上で非常に重要だと思います。私も比較的早めから国際機関に興味がありました。国際機関に興味を持たれた若い皆様は、好きなことや興味あることを見つけ出し、ぜひ志高く将来を描き、どういうことを学んでいくべきかを吸収していってください。夢を追うことは自分の成長につながると思います!